たしか大学2年の時だったから今から15年前くらいかな
その日は授業をさぼって一人で新宿をフラフラしてたんだ
特に目的もなかった
休憩がてらガードレールに座っていたら『暇ですか?』って声をかけられたんだ
残念ながら男だったけど
なにかの勧誘かと思って『いま友達を待ってるところなんで』って言うと、『ちょっとバイトをやってほしいんだ』って言ってきた
はぁ?って感じだったよ
怪しいのは分かってたんだけど気が弱い俺はすぐに断る事もできず『どんなバイトですか?』と聞いてしまった
『死体洗いって知ってる?』と聞いてきた
噂では聞いた事があった
でもそんなの本当にあるわけないと思うよね
でも気が弱い俺は『はい』と相槌を打ってしまったんだ
『バイト料は2万円、2~3時間で終わるよ。今週の土曜日だから来れるなら連絡くださいね』
そう言って名刺を差し出した
怪しいのは十分に分かっていた、でも財布が寂しいのも事実
俺は行く決断をして、名刺に書かれている番号に電話をかけた
話はスムーズに進み名刺の裏に地図が書かれているから土曜日にその場所にきてくれとの事だった
土曜日の昼下がり、俺はその場所に行った
6階建てのビルの3階だった
ドアを開けると一人の男が出てきた
前の男じゃなかったので戸惑っていると『○○さんでしょ?聞いているよ。じゃあこっちに来てくれ』と言って挨拶もそこそこにエレベーターに向かって歩き出した
着いた場所はビルの地下だった
『これに着替えてね』と男は白衣とエプロンを棚から取り出した
ゴム製のごっついエプロンだった
着替え終わると帽子とゴム手袋も渡された
男は自分もゴム手袋をはめて仕切り用に設置されているシートをめくった
そこにモノはあった
男はエタノールを脱脂綿に含ませてモノを拭き始めた
俺にもマネするように指示をした
『そうそう、それでいいんだ。じゃあ終わったらさっきの部屋に来てくれ。いま来ているものは籠のに入れておいてくれればいいから』
そう言って男は手袋を外すとそこから立ち去った
確かに恐ろしかった
でもなんとかやり遂げた
人間だったモノとは思わないように自分に言い聞かせて
俺は片づけをすませ急いで3階へ向かった
ドアを開けるとさっきの男が出てきて『終わったのか?』と聞いた
終わった事を伝えると、待っててくれと言い残し男はエレベータに乗っていった
戻ってきた男は『上出来だ』と言って机の引き出しから封筒を取り出して渡してきた
中には1万円札が2枚入っていた
数日後、その出来ごとを友達に話すと『俺もやりたい。紹介してくれ』と言いだして聞かないので、仕方なくあの名刺の番号にまた電話をかけてみた
しかし電話は通じない
じゃあそこに行ってみるかと言い俺と友人は外に出た
あのビルの3階へ上がる
ドアを開けて『ごめんください』と挨拶をすると女性が出てきた
『あの、アルバイトのことで着たんですが』
はぁ?と女性は首をかしげて『ちょっと待っててください』と告げ奥の方に向かっていった
次に男が出てきて『うちではバイトは募集してないと』と言った
俺は先週の土曜日にやったことを説明してみたが男は憮然として『あのね、うちはね、法律事務所なの。バカな事を言っちゃいけないよ。だいたい土曜日は休みだしね』と言ってドアを閉めた
ドアには『○○行政書士』と書いてあった