昔、いつ頃だったか、高知と愛媛の県境に、男女が少女を連れてやって来た。少女は、二人の子供ではなかったが、二人は少女をとても大切にしていた。三人は集落の最上の土地に家を建て、住み着いた。それから、ぽろりぽろりと、人があちこちからやって来て、村を作った。集落の上の家は神様を祭り、神社ではないが、祭司を司る家となった。
頑丈な石組の家は⚪⚪城と呼ばれて、いつの間にかそれがその家の名字になった。その一族の女の子は、流派のない、身伝え、口伝えの舞を舞う。村の祭りには必ず舞を舞わせていた。人もなかなか来ないような集落でも、全ての職業のものがおり、全く生活に困ることはなかった。
山城造りのそこは、その家から見下ろせば集落のすべてが見渡せ、もしも敵が来たとしても、上に上がるにつれ道は細く、攻めづらい作りになっていた。
集落にすんでいるのは全て血族であったという。
さて、最初に住み着いた三人は先祖伝来の剣や鏡、祭祀道具等々持参していた。それは、少女の血筋の子孫が代々受け継いでいった。
血筋を絶やしてはいけないという教えと共に。
なので、少女の子供は、二つの家に分けられ、⚪⚪城家の男子がいなくなればもう一つの家から養子に入り、もう一つの家の男子がいなくなれば⚪⚪城家の方から、養子に入ったりして、互いに血筋を絶さぬようにしていたという。
また、その集落では、海も見えない山の中であったが、舟とか、海に関係ある名前が多かった。
祀っている神も、竜神とか、権現様とか、海に関する神であった。
祭祀も身伝え、口伝えだったという。
時代が移り、今では地域の人も何も知らないが、山の尾根を行けば、祖谷も剣山も、昔の人なら歩いていけるところに集落はあるので、もしかしたら平家の落人の集落だったのかもしれない。
書き物も何もないので今ではなんとも言えないが。
いずれは伝える人もなくなるであろう、母方の実家の不思議な言い伝えである。