下市場誓願寺第九世住職は、三中上人という人でした。
ある夜、寺に飼っている猫の夢を見ました。
その夢の中で猫が
「今度こそお前の番だぞ、どんなことがあっても今度こそはやりそこないはしないぞ」
と言った。
その意味が上人にはさっぱり解らないので気味悪がっていると、翌日に葬式ができたそうです。
出がけに上人は前夜夢にみた猫に軒先で出合ったので何となく不安になり「何ごとも起きねばよいが」と思いながらもそのまま出かけて行きました。
さて、葬式が始まり、まさに引導を渡そうとした途端に一天にわかにかき曇り、ものすごい空模様になったので会葬者たちは余りのことに四散してしまいました。
しかし、上人はさすがに棺の傍を離れる訳にはゆかず、しきりに念珠をくりながら称名念仏を唱えていました。
そのうち、ふと見ると棺をゆすぶるものがあり、「これは魔物の仕業に違いない。死体に害を与えられたら大変だ」と上人はとっさに手にした念珠を強く打ち振ったところ確かな手応えがありました。
なお懸命に称名をとなえているうちに嵐もおさまり、四囲はもとの静けさにかえりました。
葬式を済まして帰山してみると、寺の飼猫が全身血まみれになっていた。
「やはり、お前だったのか」と上人は言葉をかけた。
すると上人めがけて、その猫が飛びかかってきたので、上人は力いっぱい打ち払いました。
その時を機に猫は姿を消し、二度と寺へは戻って来ませんでした。