子供の頃はよく秘密基地というものに憧れていた。俺もそーいうのを作りたくて一番仲の良かった友達と良い場所はないかと近くの森を探したんだ。用水路の流れる下あたりに小さな草原のような場所を見つけて、そこを秘密基地にする事にした。
用水路の反対側は何キロも森が続いているため足を踏み入れる事はなかった。
俺たちの秘密基地が出来たことに意気揚々としてオモチャやお菓子を持ち込んだ。一番興味のあった火を起こす場所も作った。
その日はとても天気の良い昼間だった。
いつものように石積みで作った場所に火をつけて、特に意味もなくヤカンを沸騰させて遊んでいた。たぶん漫画かなにかで見てマネをしたのだと思う。
すると用水路の向こう側からラッパの音が聞こえてきた。
遠くから。
だんだんとこっちに向かって。
そしてすぐそこまでやってきた時に音は止んだ。
何がなんだか分からなかった。誰かがラッパの練習でもしているのだろうか。友達と無言のまま顔を見合わせていると突然ラッパの音が増えて大きくなった。草を踏む音。こちらに近づいてくる。なにかの集団が。
怖くなって急いで火を消し走って逃げた。
だけど音は消えない。
逃げても逃げても音が追ってくる。
音がどんどん大きくなる。
やっとの事で人通りの多い道に出た時に音はなくなっていた。
あれからあの場所に近づくことはなくなった。
秘密基地もなくなって、持っていったオモチャもそのまま放置。
友達ともなんとなく疎遠になってもう何年も会っていない。
ラッパの音はもう聞いていないが、なんだかいろいろな物をなくしてしまった気がする。