おかしな部分もあると思いますが全て事実です。
吹奏学部に所属していた中学時代。40人の部員のうち男子は3人だけで俺はクラリネット担当だった。
夏休みに強化合宿をすることになり山にある宿舎で1週間の合宿が始まった。
宿舎にはクーラーがなくて異常に蒸し暑かった。しかも窓を開けたら虫が入り込んでくるという最悪な状況のなかでも俺達は頑張って練習をした。
そして5日目の事だった、あのおぞましい事件が起きたのは…。
その日の夕方、練習が終わったらみんなで宿舎の近くにある湖で花火をする事になった。しかしS美は「虫にさされるから」という理由で花火には行きたくないと言い出した。しょうがないのでS美を置いて湖へ出発した。
S美の友人であるK子とT代と一緒に歩いていると、突然K子が「やっぱりS美も連れて行こう」と言い出し宿舎へ引き返すことになった。
しかしS美は部屋にはいなかった。3人で手分けして他の場所も探してみたがどこにもいない。もしかすると入れ違いになったのかもしれないと思い、再び湖へ向かった。
すでに花火は始まっていたがS美の姿はどこにも見当たらない。顧問の先生にS美がいなくなった事を伝えると、S美はさっきまでここで花火をしていたと言うのだ。
俺は不思議に思ったが、とりあえず3人で周辺を探してみる事になった。
ボート乗り場までやってきた時だった。
向こう岸にS美らしき姿が見えた。
「おーい、S美！」とK子とT代は大きな声で呼びかけたが何の反応もなかった。
俺はよく目をこらしてS美を見た。向こう岸まではやや距離が離れていて、暗かったこともありハッキリとは見えなかった。
しかしドーン！っという打ち上げ花火の音と共に湖に鮮やかな光が差した。光に照らされたS美の姿を見て俺達はギョっとした。
たしかにそれはS美だった。
彼女の着ている白いワンピースには見覚えがあった。
だが、S美の顔は原型を留めていないほどにグチャグチャに潰れていた。
もはや顔かどうかも分からない。
まるで顔だけミンチにされたかのようだった。
「イヤアアアアア！」とK子の悲鳴が轟いた。T代は涙を流しながら震えていた。S美はグチャグチャの顔をこちらに向け、もう存在しない目でこちらを凝視していた。
顔の判別はできないが、俺たちのほうを見ている事だけは分かった。
俺は恐怖で二人を置いて走り出した。何も覚えていない。気づいたら皆が花火をしている場所に戻っていた。
皆にいま起きた出来事を伝え、K子とT代を探しに再びボート乗り場へ戻った。
皆は冗談だと思い笑っていたが顧問の先生だけは険しい表情をしていた。
ボート乗り場で倒れているK子とT代はすぐに見つかったがやはりS美の姿はなかった。
夜も遅くなりその日は宿舎に戻った。
翌日、顧問は警察を呼んで湖周辺を捜索してもらったところ、ボート乗り場の近くの水の底からS美の死体が見つかった。
何故か首は鋭利な刃物で切り取られ無くなっていたそうだ。
もちろん合宿は中止になり、部員達はバスで学校に戻りそのまま解散となった。その道中、口を開くものはいなく、すすり泣く嗚咽だけが聞こえていた。
警察は殺人事件として調べていたそうだが手がかりは見つからず真相は闇の中となった。K子とT代はあれからまだ一度も学校にきていない。噂では精神病院に入院していると聞いた。
そしてある日、顧問の先生に呼ばれてこんな話を聞かされた。
あの日の夜、先生は花火をしている時にS美の姿を確認したが、その後見失い、しばらくしてから湖の向こう岸にいる彼女を発見したそうだ。
その時は花火の光もあり見間違えだと思っていたそうだが、向こうにいたＳ子の顔面は赤ペンキで塗りつぶしたかのように真っ赤に染まっていたと言う。