母が亡くなった祖母の家から人形を見つけた。高級な日本人形というわけではなく、髪も顔も布であしらわれた丸い目の女の子の人形だった。
その人形を一目見て可愛いと思った私は親族に了承を得て貰ってきた。
私たち家族は全員は衣服関係の職業についていた。母は呉服屋に務めていて、妹はアパレル関係のバイト、私は縫子をやっていた。
人形の着ている服は色褪せていたのでみんなで作り直そうって事になった。母が余った布を調達して、妹が色を合わせて、私が服を縫った。
お人形遊びみたいだねと母は人形のそばに蘭の花を飾った。次の日、妹が「人形がありがとうって言ってる夢を見た!」と言っててみんなで笑ったのを覚えている。
ある日、母の知人が子供を連れて遊びにきたときに事件は起きました。その女の子は人形が欲しいと言って泣き出してしまったらしい。母は「私のお母さんの形見だからあげられないの、ごめんね」と謝ったのですが、女の子は人形を掴んで床に叩きつけたらしい。
母の知人は「子供のしたことだから許してね」とだけ言って帰った。私が家に帰ると母な人形にごめんねと謝りながら散らばった蘭の花を片づけていた。
数日後に人形を叩きつけた女の子は交通事故にあって重症を負ったらしい。最近まではそれが偶然だと思っていた。
この前、母の知人がまた家にやってきた。話を聞いていると女の子はようやく退院できたとのことだった。そして退院祝いにあの人形を譲ってくれないかと言っていた。
母は丁寧に断っていたが、知人があまりに引き下がらないので根負けしてしまった。私がいいと言うなら譲ると言っていた。
たしかに小さい女の子のほうが人形には相応しいかもしれない。だけど人形を叩きつけてしまうような子供には譲れない。
私がダメだと断ると、知人はなんと「子供が欲しいと言っているのよ!」と叫びながら飾ってあった人形を手に取って床に叩きつけた。
子が子なら親も親、怒ると床に叩きつけるのは遺伝なのだろうか。胴体を掴んで振り下ろしたため人形の足が曲がってしまった。
数日後、母の知人は交通事故にあった。命に別状はなかったものの半身不随とのこと。
これは人形の呪いなのだろうか。呪いというとどうしても髪が伸びる日本人形が定番と思っていた。この人形は見た目が可愛い普通のお人形だからどうしても呪いのイメージとはかけ離れている。
むしろ身内には呪いどころか良いことが起きている。人形を貰ったすぐあとに妹が宝くじに当選したり、私の職場にいた嫌な上司は転勤になったり。