史上最悪の大誤審
4回表に関の中越二塁打をきっかけにタイムリーヒットで先制した川口工だったが、その裏熊谷商は犠牲フライと適時打で2点をあげて逆転する。問題となったシーンはこの直後の5回表に起こった。
川口工は1死から6番・瀬川誠が中前安打で出塁。続く7番・坪山耕也の2球目に瀬川が二盗を試みた際、熊谷商ショート・福島雅也は石塚順一捕手からの送球を落球し、「空タッチ」の形になる。瀬川の盗塁が成功したかに思われたが、二塁塁審はアウトを宣告した。大脇に命じられ抗議に走った国府田は「あからさまに落としているのだから、抗議に行くまでもなく覆るだろう」と考え、塁審に「落としていますよね?」と訴えたが判定は覆らない。一度ベンチに戻った後、再度塁審に審判団で協議するよう訴えたが、その協議の結果もアウトだった。
納得の行かない判定に対し、川口工側のスタンドからは空き缶や紙くずが投げ込まれ、さらに激昂した観客がグラウンドに乱入して審判に食って掛かった。大脇が彼らの首筋を掴んでスタンドへ返し、この間試合は約10分間中断した。ファンの暴徒化を目撃していた野球解説者は「これが高校野球です。商売でやっているわけじゃないんですから」と審判の判定を受け入れるべきであると持論を述べた。
試合再開
2死無走者で再開された中断明けの打席で坪山はライト線を破る二塁打を放ち、結果的に瀬川の盗塁が認められていれば同点となっていたことになる。国府田は「普段めったに打たないやつ(坪山)が打った」ことで、誤審がなければ同点だったという動揺がチーム内に生まれたと述べた。浮ついた様子の選手に大脇が「冷静になれ。落ち着くんだ」と助言したが効果はなく、5回裏の守備で関の投球が高めに浮いたところを熊谷商打線に捕まり2失点。川口工は守備中に内野陣のボール回しで打者走者の頭部に送球を当ててしまったり、攻撃中にクロスプレーやベースカバーに入った相手野手に乱暴なプレーを見舞うなど気持ちを切り替えることができず、8回には熊谷商が守備の乱れにつけ込んで3点を加点し、7対2で勝利した。
試合後
国府田は終了直後「5回のジャッジは納得できない」と悔しさを顕にしながらも「完璧にやられた。もうしょうがないなと納得するしかありませんでした」「熊谷商は甲子園で頑張ってほしい」と振り返ったように、点差をつけられての決着に両軍は冷静さを取り戻し、川口工の選手は甲子園に進む熊谷商の選手にエールを送り、互いに健闘を称え合った。一方で川口工のファンを中心に尚も納得のいかない観衆は判定に対する不満を顕にし、審判員は彼らが落ち着くまで球場に缶詰にされた。件のプレーを裁いた二塁塁審はこの試合後まもなく高校野球審判員から身を引いた。