プレイステーションソフトのコワイシャシンというゲームがとても危険らしい。
開発会社に勤めていた人の話によると怪我人が続出、自殺者も出たそうだ。
開発を指示をしていたのはK川という人で当時はテレビや雑誌などで心霊写真を扱う企画が人気で、ソフト自体が夏発売だった事もありその路線で企画された。ゲーム内容は本物の心霊写真をしようしてゲーム内でプレイヤーに除霊させるというものだった。企画会議では他の社員からも好評ですぐに社長からのゴーサインも出された。
ところが肝心の心霊写真はどうやって入手するかという懸念が出てきた。最初は本物の心霊写真じゃなくても良いんじゃないかって話になったがK川さんの拘りは強く、本物の心霊写真を探す事になった。
社員総出で知人に聞きまわったり雑誌の募集をかけたりして数枚ほど集まったがろくなものがなく全てボツとなってしまった。そんな中、ある雑誌社からの紹介で心霊特番などを製作している会社から写真を提供してもらえることになった。
K川さんの出した条件はこうだった。
1.本物の心霊写真であること
2.除霊はしていないこと
3.写真の持ち主から了承を得ていること
契約は無事に完了し、30枚ほど発注をする事になった。
次の問題はゲーム内での除霊方法だ。
アクソンゲーム風に霊を倒して除霊完了という話も出たのだがここでもK川さんの拘りは強く、実際の除霊と同じ方法をゲーム内でも行うというコンセプトは曲げたくないという意向で本物の霊媒師に聞くことになった。霊媒師に相談したところ監修として名前を載せる事と監修料の支払いで難なく了承を得られた。
1.まずは印を結ぶ、これはコントローラーのボタンを使用する
2.お経を発する、教えてもらった言葉の音声を出す
3.最後に護摩を焚いた火で燃やす、これは画面から消せばいいだろう
そして最後の問題。
ゲームのストーリーは霊媒師である主人公のもとに恐ろしい体験談と一緒に心霊写真が送られてきて、その話を読むと除霊開始されるというものだった。
しかし到着した写真は海や修学旅行のものばかりでバリエーションに貧しく、さらに霊が見にくいものや白いオーブが写真全体に散りばめられているようなもので霊を探すゲームには適してないという理由でリテイクされた。何度かやり取りを行ったものの条件に一致する写真は少なく開発期間が掛かりすぎてしまうため、心霊写真自体は本物なのだから使いづらい部分は加工しようという事で決定した。
要らないオーブを消す、霊が見にくい場合は拡大したり色調補正で浮き立たせた。霊自体の偽造はしてはいけないというK川さんの指示により、霊が少ないときは他の写真から霊を切り出してコピペして霊を増産した。
心霊写真を使って心霊写真を偽造する暴挙、この霊を冒涜した行為にデザイナー達は心身共に疲れ、鬱になって会社を辞める者も出た。
なんとかα版が完成し、ゲームバランス調整のためのデバッグ作業がスタートされた。
しかしそこでついに事件が起きてしまった。
社内に突然ギィーーーーと軋むような凄く大きい音が鳴り響いた。その音はどんどん高くなり、ィーンと耳では聞き取れない音になって最後には消えたのか聞こえなくなったのか分からなかった。
社員が騒然としていた時にデバッグ室から叫び声が上がった。見に行くとデバッグ中のスタッフがコントローラーを握ったまま倒れていた。目を見開くバキバキと歯軋りの音がしていた。
救急車で搬送されたが身体的には問題ないということで自宅療養となった。
翌日、そのスタッフが自分の右手の親指を包丁で切り落とした。本人によると記憶があるが何故そんな事をしたのかは分からないとの事。早朝痛みで起きて驚いたそうだ。親指がないって。
それからも怪奇現象は収まらず倒れる者、辞めていく者が続出。
お祓いをしてもらいどうにかこうにかマスター完成までたどり着く。
しかしろくなデバッグは行えずゲームバランスはボロボロ、デザイナーがグラフィック加工を拒否したためチープな心霊写真、スタッフロールには最後まで残った数名のみ。
途中からK川さんは会社に来なくなっていた。理由は心療内科に通っていてしばらく休むとのこと。マスター完成数日前にK川さんから電話があり、体調が良くなってきたので今日から出社しますと伝えられた。しかしK川さんは来なかった。その日の夕方、社長に社員だけが会議室に呼ばれて話があった。K川さんが駅のトイレで首を吊って死んでいるのが見つかった、と。会社に向かう方向とは逆で、その駅はゲームに使用していたある写真のすぐ近くの場所だったらしい。
ゲームはひっそりと発売され、その後会社は倒産した。