鏡の前でお辞儀をしたまま横を向いてはいけない。
このような話を聞いた事があるだろうか?
この都市伝説はある体験談が元になっているようだ。
俺の会社は上司が帰るまで下っ端は帰れないっていう暗黙のルールがあっていつも帰りが遅かった。
疲れていたせいなのか…、何故あんなことをやったのか今でも分からない。
部屋の鏡の前で「やってはいけないこと」をやってしまったんだ。
別に好奇心とかじゃなくて、ただなんとなく思いついただけだったんだろう。
俺の部屋は八畳のワンルームで部屋の入口に姿見用の鏡が置いてある。
さっさと服を着替えて寝よう、そう思って部屋に入るなりズボンのベルトに手をかけた。
目の前にはちょうど鏡がある。
ズボンを脱ぎ、ちょうどお辞儀をするような格好になった。
その時俺は何故か部屋の真ん中に気配を感じた。
別に霊感があるわけでもないし幽霊を信じているわけでもない。
ほぼ無意識だったと思う。
横を向くと何かがいた。
いや『誰か』がいた。
160cmくらいかな、腰の高さまであるボサボサの髪が顔を隠していた。
白装束だっけ?亡くなった人に着せる白い着物みたいなの。
あれを着て小さく左右に揺れていた。
俺は固まったままだった。
声も出ないし身体も動かせない。
金縛りで動けないんじゃなくて今起きている出来事を理解しようと脳をフル回転させるのが精一杯だった。
想像してみてほしい。
狭いワンルームの部屋の真ん中に知らない誰かがいるって状況を。
頭の中はただただ混乱だけが渦巻いている。
とにかく異常な光景なんだ。
電気もついていて明るいんだけど、逆にそれが怖さを増幅させているんだ。
なんだか知らないそいつがハッキリと見えているから。
そいつの周りはちょっとだけ青みがかかって見えた。
時間が止まったのかと思うくらい静かだった。
体感的に5分ほど経つとそいつはふとどこかへ姿を消した。
あれは一体なんだったのか。
俺のあの行動が幽霊の姿を見る方法だったのかは今でも分からない。
ただあんな怖い思いはもうしたくないので鏡はすぐに捨てた。