僕が子供の頃の話だ。
夏休みに僕は妹と近所の川原で遊んでいた。叫び声に気づいたら妹は川に流されていた。
遺体は1週間後に下流のほうで発見された。
僕は一人で妹が流された川に来ていた。お父さんとお母さんは危ないから行ってはいけないと言われていた。だから黙って一人で来た。
僕は川原で花を摘んで川に流しお祈りをした。よく覚えてないけどうろ覚えの念仏とか「ごめん」って唱えていたと思う。子供ながらにできる供養のつもりだった。
ふと目を上げると川の中に青白い顔をした女の子の顔が浮かんでいた。
女の子は川の中から僕のほうに向かって歩き出した。無表情の顔を見て僕は「妹だ」とつぶやいた。
なぜだか怖くなかった。1週間ぶりに会った妹が近づいてくるのを待っていた。
やがて水からあがった妹は髪から水をぽたぽたと垂らしながら僕の前に立ってニッコリと微笑んだ。
なんて声をかけよう。
「久しぶり」って言おうか、それとも「ごめん」って謝ろうか。
言葉が出ない僕は無意識のうちに妹に手を伸ばした。再開の嬉しさで抱きしめようと思ったのか。
すると妹は急に目を吊り上げて口を醜く歪ませて、
「あたしは死んだのになんでお兄ちゃんは死なないの!!」
って叫んだ。
僕は恐ろしくなって目をつぶってしまい、目を開けたときにはもう妹はいなかった。
それ以来、あの川には行っていない。