10年前、仲の良い女友達がいたんだ。名前はM子、今だから言えるけど俺はM子のことが好きだった。
まぁヘタレの俺は告白なんてできなかったんだけど。よく一緒に遊んだりしていたよ、自分の気持ちを隠しながら。
ある日、M子は手術をするために遠くの病院に行くことになったんだ。本人は詳しく話してくれなかったけど先天性の持病を持っていたらしい。
本当は優しい言葉で励ましてやりたかったんだけど、なんだか照れくさくてふざけてしまった。
「手術中に暇だったら幽体離脱でもして俺のところに来いよ。頭でも叩いてくれたらお前だってわかるからさ」
自分でも何を言ってるんだろうと思った。手術中に暇なんてことはないだろ。自分で自分の頭を殴りたくなった。
でもM子は「絶対行くから」って答えた。はぁ?って笑ったけどM子は真剣な顔だった。
それから数日後にM子は病院へ行った。
さらに2日後、手術の日の夜、不安で眠れなかった。もう二度とM子とは会えなくなるかもしれない。不吉なことばかりが頭をよぎる。
でもやっぱり寝ちゃうもんなんだよな、人間って。いつのまにか寝てた。
寝ていると、なにかが頭を触っているような感覚がすることに気づいた。その度に鳥肌が立つ。身体は動かなかった。金縛りだってわかったんだけど恐怖みたいなものはなかった。
ゆっくり目を開けると白いワンピースを着たM子が目の前に浮かんでいた。M子は悲しそうな顔をして俺を見ていた。
そしてM子は少しずつ離れていった。俺はなんだかよくわからないけど涙が出た。それと同時に右腕を勢いよく伸ばして離れていくM子の肩を掴んで引き寄せた。
「早く帰ってこいよ」って言うとM子は笑顔で頷いた。
そこで目が覚めた。夢か・・・。変な夢だったなぁ・・・。
3日後に友達からM子の手術が成功したことと退院してもうすぐ帰ってくると連絡があった。
さらに3日後、M子が帰ってきた。もう何年も会っていなかったような気さえする。懐かしい笑顔だった。
それなのにやっぱりヘタレな俺は「退院おめでとう」と素っ気ない一言。さすがにマズイと思ってすぐに「お前が手術した日にお前の夢見ちゃったよ」と続けた。
するとM子は「ちゃんと行ったよ。覚えてる」と答えた。
困惑する俺をよそに「これ見て」と服の袖をずり挙げて肩を見せてきた。そこには手の痣がついていた。手を当ててみてと言われた。俺は右手をM子の肩に近づけると指と痣の形がピッタリと合わさった。
あれは夢じゃなかったんだ。
話を聞くと、手術の途中で一度危ないときがあったらしい。医者は慌てて対処しようとしたけど何故かすぐに落ち着いていたそうだ。
M子が言うには俺に会いにきたのがそのときだったのかもって。
結局俺はM子に告白することもなく時間と共に疎遠になった。今でもたまに「あれはなんだったんだろう」って思い出す。