栃木市の大中寺に伝わる七不思議には血なまぐさい伝説が多く、中でも一番猟奇的なのは「根無し藤」と呼ばれるものだろう。これは上田秋成の『雨月物語』にある「青頭巾」としても知られ、話のあらすじは次のような内容。
昔、大中寺の住職が旅先で稚児を連れて帰り、住職はこの稚児を溺愛して仏事をも疎かにするほどだった。そのためこの稚児が急病で亡くなると、住職はショックのあまり気がふれてしまったのか、稚児の遺体を葬らず、ついにはその遺体を食べつくしたという。それからというもの、住職は夜な夜な里に下りては墓を暴き、死肉をむさぼるようになったため、村人は住職が人食い鬼になったと言って恐れ、日が暮れると家の戸を固く閉ざした。
その時、ちょうど諸国行脚の旅をしていた快庵という名の僧がおり、この寺の近くを通りかかり、村人からこの話を聞いた。快庵は話を聞くと早速大中寺に行き、一晩の宿を求めた。夜半になり快庵が座禅を組んでいると、人食い鬼となった住職が快庵を喰らおうと部屋のあちこちを探し回った。しかし不思議なことに鬼となった住職には快庵が見えないようだった。
朝になり、快庵が元の場所で座禅をしている不思議を目の当たりにした住職は、自分の犯した罪を懺悔した。快庵は住職に自分のかぶっている青頭巾を与え、次の句の意味を考えるように教え諭した。「江月照松風吹 永夜清宵何所為」(月は海を照らし、風は松に吹く 長い夜、清々しい宵は何のためにあるのか)
さて、翌年になり快庵が大中寺を訪れてみると、一年前と同じ場所に住職が座って、快庵が与えた句を繰り返しつぶやいていた。持っていた藤の木の杖で住職を叩いて喝を入れると、その姿はたちまち青頭巾をかぶった骨だけの遺骸に変わり果てた。快庵は住職を手厚く葬り、墓標として藤の杖を地面に突き刺した。この藤の杖が根を張り、大木になったものが今に伝わる大中寺の根なしの藤だという。なお、この話の快庵妙慶こそが大中寺を再興した人物である。
大中寺にはこの他にも、晃石太郎(佐竹小太郎)が戦いに敗れて大中寺に逃げ込むものの、叔父である住職にかくまうことを拒否され、愛馬の首を刎ねて井戸に投げ込み、みずからも自害したという伝説のある「馬首の井戸」や、小太郎の奥方が夫の後を追って厠で自害した伝説の残る「開かずの雪隠」など怖い話が多い。
どんな幽霊が出ましたか?
少年5
男性8
老爺5
動物4
少女0
女性2
老婆2
正体不明2
↑ボタンをタップすると投票できます(3回まで)