「 まず教室で一人きりになるのそれから目をつぶって心の中で名前を呼ぶケンタ君ケンタ君‥しっかり66回名前を呼ぶこと次に心の中でお願いをする友達と仲直りさせてくださいでも算数のテストをなくしてほしいでもなんでもいいみたい。お願いも66回つぶやくそれが終わったら目を開けて大丈夫。もう願いは叶っている。ケンタ君はどんな願いでも叶えてくれる。でもね、まだ気を抜いてはいけない。ケンタ君はまだ帰っていないの。こっちの世界に残ってる。名前を呼んだだけで、さよならをしていないからね。さよならする方法はケンタ君を呼び出した子が自分の家に帰ること。呼び出した子が家に帰ったのを、確認すると ケンタ君も向こうの世界に帰ってゆく‥‥それまでケンタ君はついてくる。呼び出した子のすぐ後ろにぴったりと張り付いてね‥だからね学校からの帰り道 絶対に振り向いてはいけないのケンタ君をしたらねどんなに途中で不安に思っても前だけを向いて歩かなくちゃ行けない」放課後教室には僕たち3人だけが残っていた みつきちゃん、ひさし[ヒサヤン]僕噂話を聞き終えるとヒサヤンは当然の質問を口にした。「もし振り向いたらどうなるの」「もし振り返って健太くんと視線が合ってしまったら、その瞬間にお互いの体から、魂が抜けて入れ替わってしまうの。つまりその子は健太君になってしまうのよ。健太君になってしまった子は向こうの世界に連れて行かれてしまう。」「そんな‥‥」ヒサヤンが弱気な声を漏らした。僕はため息をつくと言った「やっぱり正直に先生に謝った方がいいよ、ヒサヤン僕も一緒に職員室に行くからさ」「うんでも‥。」ヒサヤンは眉間にシワを寄せ、困った表情を見せた視線は自然と割れてしまった花瓶に向かう 「でも他に方法がないわよ‥‥別に私はどっちでもいいけれど、ひさし君が先生に怒られようが、お母さんに連絡がこうがね」ヒサヤンは泣き出しそうな顔になった。「やめなよ 追い詰めるようなこと言っちゃだめだよ」 「振り返らなきゃいいだけよ、男子は育児がないわね」みつきちゃんの言葉を聞いて、ヒサヤンは心を決めたようだった。「そうだね‥僕ケンタ君にお願いしてみるよ。じゃあまた明日」翌日僕はいつもより早く目が覚めてしまった。昨日のことが気にかかり、日直でもないのに早くに登校した僕は、廊下にある水飲み場で、ヒサヤンの姿を見つけた。おはよう僕が声をかけると、ヒサヤンもおはようと笑顔で返した。ヒサヤンは昨日割れてしまったはずの花瓶に水を注いでいた。「ケンタ君へのお願いって本当にかなうんだね」「うんすごいよね」「それでさ‥‥」一拍開けてから僕は本題を切り出した。「振り返らずに帰れたんだよね」ヒサヤンはにっこり笑った。「もちろんだよ僕は一度も振り返らなかった。しっかりと前だけ向いて帰ったよ」僕は安心した「なんだか心配でさ、今日も無駄に早く目が覚めちゃったよ」「ゴメンね。心配かけちゃってでもだいしょうぶだったじつは‥1回だけ危ないところがあったんだけどね。○○大橋のところで後ろから犬に吠えられたんだ。それはすごく驚いたし、怖かったけれど絶対に振り向かなかった僕はただずっと前だけをみてたんだ。」教室に入って二人で話していると、みつきちゃんが登校してきた。みつきちゃんは「ケンタ君ってすごいわね」とつぶやいた。「こんなに早くくるなんてなんだかんだいってもみつきちゃんもヒサヤンのことしんぱいだったんだね」みつきちゃんは顔を赤くして反論した。「違うわよ。私はケンタ君がどんな顔か知りたかっただけよ」「ほんとかなー」「ほんとよ」僕がみつきちゃんをからかっていると、ヒサヤンがボソリとつぶやいた。「‥‥‥驚いた顔してたよ」「なんの話してるの」「だからケンタ君の顔だよ」「見たの?」「うん」「だってさっき振り向かなかったって」「そうだね僕は振り向かなかった」「でしょ」「ずっと見つめてたんだ前を歩くあの子の後ろ姿をねだって僕が振り向いでしまったらあの子と目が合わなくなってしまうもの」