場所については、だいたいこのあたりということしかわからないので、ご容赦願いたい。
もう25年ほど前のこと。秋口の10月ごろだった。
時間は明け方の5時ごろではなかったかと思う。
東京方面に向かって走行車線を走行中、
ヘッドライトに突然、あるものが照らし出された。
それは、車の底部に取り付けられている、
『エキゾーストパイプ一式』であった。
エキゾーストマニホールドの取付部から
キャタライザー、マフラーまでがつながった『一本の棒』だ。
それが走行車線を塞ぐように斜めに横たわって置かれてあった。
「!!!」
と、突然の状況に脳が対応できないほどだった。
しかも、追い越し車線にも障害物があるのが見えた。
エキゾーストパイプの持ち主というか、
セダンの乗用車が追い越し車線で横転した状態だったのだ。
障害物までの距離は100メートル以内。
気候は霧雨で路面が濡れている状況。
今と違い、当時の車にはABSは標準採用されていなかった。
自分に残された選択肢が多くはないことを悟ったし、
選択決定までに残された時間が短いことも痛感していた。
「どうするか?」という文字が脳裏に浮かんだ瞬間、
自分は一つの決定を下した。
「このまま、突っ切る」
雨が降っていなければ、当然、急ブレーキの状況だ。
(それでも止まれるかどうか、ギリギリだったと思う)
ABSのない時代、降雨時の高速では急ブレーキ厳禁だった。
路側帯を走り抜けるという選択肢もあったが、
その付近の路側帯は幅が狭かったことを確認していたため、
100kmのスピードで適切にハンドルを操作する自信はなかった。
それよりも、スピードをある程度落としつつ、
エキゾーストパイプを乗り越えるほうが、
もっとも危険が少ないのではないかと判断した。
どんどん目の前にエキゾーストパイプが迫ってくる。
全身をシートに押し付け、衝撃に身構えた。
どのような挙動になるかわからないため、
ハンドルを異様なほどの力で握りしめていたように思う。
乗り越える直前、右の視界に、
追い越し車線に横たわる乗用車と、
黒いシルエットをした人間が写り込んだ。
(えっ! 人がいるのか)
と思った。
(事故を起こして、まだ間がないのか)
とも思ったし、
(なぜ、こんな危険なところに立っているんだ)
とも思った。いずれにせよ、差し迫る危機を越えたら、
彼を助けてやらなければならないなと判断した。
そして、エキゾーストパイプ通過の瞬間を迎えた。
「………」
身体には何の衝撃も加わらなかった。
耳には何の衝撃音も入ってこなかった。
正直なところ、自分は死んだのではないかとも一瞬思った。
しかし結果は、何の状況的変化も一切発生しなかったのである。
(あれ? 彼は?)
と追い越し車線上に佇む男の存在を思い出し、
ドアミラーで後方に流れ去っているであろう横倒しの車を探した。
しかし、ドアミラーには何も映ってはいなかった。
この一連の出来事は、深夜から早朝にかけての薄暮の時間帯に起きた。
周囲には自分以外の走行車はいなかった。
ハンドルを握りながら、今の出来事をすぐには整理できなかった。
ただ思ったのは(瞬間的に眠ったのかもしれない)ということだった。
しばらくして考えついたことがあった。
(あの時、急ブレーキや急ハンドルを選択していたら、
あの男の横に自分が並んで立っていたのかもしれないな)
真相は25年の時間の中ですべてが闇の中に消えてしまった。
どんな幽霊が出ましたか?
少年5
男性9
老爺3
動物0
少女0
女性3
老婆0
正体不明2
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